夜霧

用を済ませ、外へ出ると、霧が出ていた。
立ち並ぶ街燈がまるでスプリンクラーのように、水滴を映し出す。
時計は22時。
都市化も緩やかなこの辺りは、開いている店も少なく、歩く人も、車も、ほとんど姿を見せない。
私はゆっくりと自転車をこぐ。
夜霧なんて、初めてだ。
やがて、街からも外れ、満足な灯りもない田舎道へ出た。
頼りになるのは、頼りないダイナモの光だけ。
右手に崖、左手に防波堤、その先は無。
黒い闇と、白い霧に、世界は閉ざされている。
その小さな空間は、まるで、作られた世界のように単純で、おぼろげで、儚く消えてしまいそうに思える。
その中でいのちを感じさせるものは、私だけ。
いや。私だって、生きているのだろうか。
生命は滅び、世界は壊れ、かすかな記憶が、小さな世界を生み出しては、消していっているのではないか。
ここしばらく癖になっている妄想――願望かもしれない――を繰り返しながら、その足はもう無意識に、自転車をこぎ続ける。
そのうち、長時間の走行と下らない思考に疲れ、私は何気なく、目を強く閉じた。
冷たい。
睫に霧の水分が溜まっていたらしい。
その温度が私を現実に引き戻す。
つまらないことだが、ここに体が存在している。
つまらないことだが、どうやら私は生きている。
本当につまらないことだ……。
気がつくと、私は家に帰ってきていた。
体は疲れているが、いつものように、PCを立ち上げる。